軽貨物運送事業で長く働いていると、法人化を考える人もいるでしょう。
個人事業主として働く場合と、法人化(会社を設立)して働く場合では、あらゆる面で違いがあるので、あらかじめ知っておいたほうが良いと言えます。
この記事では2つの働き方の違いに加え、法人化のメリット・デメリットや、法人化すべきタイミングなどを詳しく解説します。
法人と個人事業主の違い
軽貨物運送事業を営むうえで、個人事業主として軽貨物を始める場合も、法人で始める場合も起業という意味では変わりはありません。
個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人の総称のこと。軽貨物ドライバーの多くが個人事業主です。個人で起業するという形で、運送会社と業務委託契約を結び、配送の仕事を請け負うことになります。
それに対して法人は、会社を設立し、法人としての登録を済ませた組織のことを指します。運送業の法人化とは一定の手順を踏み、法人としての登録を済ますという意味です。
個人事業主と法人ではそれぞれにメリット、デメリットがあります。
軽貨物業界での経験を積み、事業を大きくしたいと考えるならば、個人から法人に変更することも視野に入れるべきですが、法人化することが本当にベストなのかは、今の自分の働き方などによって変わってきます。
どういう人が法人化するべきなのかを判断するために、次章からは法人化するメリットとデメリットを解説します。
軽貨物運送事業を法人化するメリット
軽貨物で法人化するメリットは主に以下の3つ。
- 人を雇いやすくなる
- 助成金や補助金を活用しやすくなる
- 節税できることがある
今の自分の働き方と比較して、法人化するメリットがあるのか、この項で確認するようにしてください。
人を雇いやすくなる
まず、法人化するメリットとして、人を雇いやすくなる点が挙げられます。
軽貨物で法人化する人の多くが、収入の増加を狙って法人化すると思いますが、法人化して収入をアップしたいならば、多くの人を雇う必要も出てくるでしょう。
法人は個人に比べ、社会的信用度が高い傾向にあると言えます。ドライバーの中には、個人と契約するよりも「会社」という看板に信用を見出すドライバーも一定数います。
そのため、法人を設立すると人を雇いやすくなりますが、実際のところは個人事業主のままでもドライバーは集まりますし、それほど大きな違いはないかもしれません。
しかし、法人に対して社会的信用を感じるのはドライバーだけではありません。
例えば、荷主である企業と直接契約をして配送の仕事を行いたい場合、法人としか契約しないという企業も多く存在します。
直接契約は手数料を取られることがないので、多くの利益を上げることが可能。多くの案件をスムーズに獲得するためには、法人化して社会的信用度を挙げておくことは有効です。
助成金や補助金を活用しやすくなる
助成金や補助金は会社を設立した際に国から貰えるお金であり、返済の必要がないため、支給対象に当たる場合は積極的に活用したい制度です。
助成金や補助金にはいくつか種類があり、軽貨物で開業した際に貰える助成金をうまく活用すれば、開業時の金銭的な負担を減らすことができます。
法人は個人事業主に比べ、助成金の適用範囲が広いので、法人化のメリットになり得るでしょう。
ただし、個人事業主でも貰える助成金も存在するので、開業する際は自分にどのような助成金が適用されるのか確認しておくようにしてください。
また、助成金とは異なりますが、金融機関から融資を受ける際も、法人のほうが融資を受けやすいと言えます。
節税できることがある
法人化には節税のメリットもあります。
軽貨物運送事業を営むにあたって、個人事業主は所得税を納めることになりますが、法人には法人税が適用されるので、所得によっては法人化することで節税になることも。
所得税と法人税の税率の違いを下記の表にまとめたので確認してみてください。
所得税
所得額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636000円 |
900万円超1800万円以下 | 33% | 1536000円 |
1800万円超4000万円以下 | 40% | 2796000円 |
4000万円超 | 45% | 4796000円 |
法人税
資本金 | 所得額 | 税率 |
---|---|---|
1億円以下 | 800万円以下 | 15% |
1億円以下 | 800万円以上 | 23.20% |
1億円以上 | 23.20% |
所得税と法人税の税率の違いを見比べると、所得の大きさによって法人化したほうが税金面で有利になることがわかります。上記の表を見れば所得が330万円を超えれば、法人化したほうが有利になるように感じますが、所得税は累進課税なので、そう単純な話でもありません。
一般的には所得が800万円を超えれば、法人化したほうが節税になると言われています。
また、法人化すればこれまでは経費として認められなかった項目が経費として計上できるようになったり、給与所得控除を受けられるようになったりなど、さまざまな面で節税が可能になります。
軽貨物で大きな事業展開を想定している人は、節税によるメリットは、より大きなものとなるでしょう。
軽貨物運送事業を法人化するデメリット
個人事業主から法人に変更することにより得られるメリットがある一方で、デメリットもあります。
人によっては、法人化せずに個人事業主のままでいるほうが良い場合もあります。法人化することによって起こるデメリットもきちんと確認して、自分に最適な働き方を見つけてください。
主なデメリットは以下の3点。
- 初期費用がかかる
- 事務が複雑になる
- 準備に手間がかかる
それぞれ解説します。
初期費用がかかる
法人化のデメリットとして、まず挙げられるのが初期費用についてです。
個人事業主の場合は開業にかかる費用はほとんどありません。
一方で法人化する場合、定款の認証手数料、謄本の手数料、登録免許税、印紙税の費用等をもろもろ合わせると、最低でも25万円程かかってしまうのが一般的です。
これらの手続きを専門家に依頼することもできますが、その場合は代行の手数料がかかるので、さらなる費用負担となります。
会社設立の費用だけでもそれなりに大きな金額が必要なので、法人化する際は一定の資金を用意しておくことが大切です。
事務が複雑になる
法人は個人事業主に比べ、事務作業が複雑になる点もデメリットです。
法人化すると会計や社会保険などの事務が複雑になり、個人事業主の頃は手早く行えていた事務作業に大きな時間を割かれます。
法人化して利益を上げるには、ドライバーを増やすことが重要ですが、会社に所属するドライバーが増えるほど事務作業も複雑になっていくでしょう。
準備に手間がかかる
軽貨物で法人化する場合、個人事業主の場合よりも開業にも手間がかかります。
会社設立の手続きに加え、社会保険への加入手続きが必要となるのはもちろん、多くのドライバーがいる場合は、適切な営業所と車庫、休憩睡眠施設を用意する必要があります。
軽貨物の法人設立は、一般貨物車での法人設立よりもハードルが低いですが、それでも個人事業主として開業するよりは、面倒な手順を踏むことを覚悟しなければなりません。
軽貨物運送事業を法人化すべきタイミングはいつ?
運送業を法人として開業すると儲かることもありますが、法人化するタイミングを間違えてはいけません。
この章では軽貨物運送事業で法人化すべきタイミングについて解説します。
法人化のタイミングとして考えられるのは以下の2つ。
- 所得が800万円を超えたとき
- 軽貨物業界で長く働き、働き方のノウハウや業界内での人脈が生まれたとき
それぞれ解説します。
所得が800万円を超えたとき
これは軽貨物業界のみならず全ての業界での共通認識ですが、自分の所得が800万円を超えたときは法人化を検討しても良いタイミングと言えます。
理由は節税面のメリットが大きくなるためです。
法人化すると法人税を納めることになりますが、自身の所得が800万円を超えたあたりから、所得税を収めるよりも割安になるとされています。
ただ、個人事業主の状態で所得が800万を超えるというのはかなり難しいので、あくまで1つの目安として覚えておきましょう。
軽貨物業界で長く働き、働き方のノウハウや業界内での人脈が生まれたとき
これから軽貨物業界へ参入しようと思っている人の中には、「初めから法人で開業したほうが良いのでは?」と考える人もいるでしょう。
しかし、それはあまりおすすめできません。軽貨物で働いた経験がなく、配送の効率化やドライバー同士の連携の重要性を理解していないまま、いきなり法人で始めるというのはリスクが高いと言えるでしょう。
配送の仕事にはトラブルがつきものです。法人として軽貨物事業を始め、企業と契約できたとしても、代走の手配や、トラブルの処理に素早く対応できないようでは、継続的に活動を続けていくのは難しいでしょう。
軽貨物運送事業を始める際は、まず個人事業主として開業するのがおすすめ。ドライバーとしての経験を積み、業界内である程度横の繋がりを確立してから、法人化を検討するのが無難であると言えます。
法人化のタイミングを考える際には、自身のドライバーとしてのスキルに加え、会社経営の明確なビジョン、困ったときに助けてもらえる業界内の横の繋がりの有無も、重要な検討材料となるでしょう。
法人化の肝は売上拡大!案件の獲得に注力しよう
軽貨物の法人化はメリットばかりではありません。デメリットも多く存在し、軽貨物で働く多くの人が、個人事業主として働いていることからもそれが分かります。
しかし、ドライバーを集めて法人化することが、稼ぎを大きくするのに有効なのもまた事実。法人化し、社会的信用度を高め、企業の案件を多く獲得することができれば、個人事業主のときよりも効率よく稼げるでしょう。
また、軽貨物で法人化する場合、安定して仕事を請け、ドライバーに供給できる体制を整える必要があります。そのためには、案件の獲得が必須。
個人事業主として活動する頃から横のつながりを意識し、まずは個人として信用と実績を高める努力をする必要があるでしょう。