市場規模の拡大により、今後もますます需要が増えていくことが予想される軽貨物業界。
多くの請負元が存在する中、軽急便で軽貨物ドライバーをはじめてみたいという人も少なくないでしょう。
しかしネット上には、軽急便はやめておけと忠告する声があふれています。それは一体なぜなのでしょうか。
本記事では軽急便で仕事をするうえで知っておきたい基本情報から、軽急便ドライバーの年収、現在の評判について解説していきます。
軽急便とは
軽急便とは、軽貨物自動車にて荷物の配達を行う運送業者です。一般的な宅配業者とは異なり、個人宅ではなく企業向けの緊急配送を主な業務としています。
ここでは、軽急便株式会社についてや軽急便ドライバーの仕事内容、赤帽との違いなどについて解説します。
軽急便株式会社について
軽急便株式会社は、1983年に創業された愛知県名古屋市に本社を構える運送会社です。
貨物軽自動車運送事業をはじめ、労働者派遣事業や自動車、自動車部品の販売なども行っています。
全国に3つの配車センターと6つの支店、16の営業所が存在し、会員として業務にあたるドライバーは約1,200人。
そのうち9割が未経験からスタートしており、現在22歳〜80歳と実に幅広い世代のドライバーが、専業や兼業などそれぞれのライフスタイルに合わせたさまざまな形態で活躍しています。
軽急便ドライバーは委託契約を交わした個人事業主
軽急便ドライバーは、軽急便と業務委託契約を交わした個人事業主です。
また、軽急便が受注した仕事をドライバーに振るシステムであるため、ドライバーは自ら営業活動をする必要がありません。
個人事業主であれば、事務処理や請求業務などといった事務作業も自らしなければなりませんが、軽急便ではそういった面倒な作業も行ってくれるため、ドライバーは事務作業に時間を取られることなく配達に専念できます。
また、ドライバーの責任によらない貸倒れがあった場合の全額保証や、開業後2か月の間は売上保証制度によって最低限の売上が保証されるなど、未経験者でも安心して始められるサポートも充実しています。
軽急便ドライバーの仕事内容
軽急便ドライバーの仕事は、基本的に企業間のものがメインです。
たとえば、以下のような仕事があります。
- 運送車両、部品が不足した際の緊急配送
- 時間、日、月単位の専属配送
- 運送物の取り付けや設置、簡単な修理を伴う配送
- ハンドキャリー業務
緊急配送は、24時間365日体制で対応するというスピーディーさが売りです。原則30分以内に集荷し、配達しなければなりません。
企業間のルート配送や社内便は、企業専属のドライバーとして時間、日、月とさまざまな単位で対応します。ときには運送物の取り付けや設置、簡単な修理などを伴う配送も。
とはいえ事前の説明や研修があるため、はじめてでも安心です。
また、軽貨物自動車ではなく新幹線や飛行機を利用し、目的地まで手持ちで配送するハンドキャリーという業務もあります。
このように、軽急便では一般的な軽貨物ドライバーでは体験できないような仕事も多く取り扱っています。
参考:軽急便と赤帽の違いは?
それぞれ専用の軽貨物自動車で荷物を運ぶという点では、似通っているように思える軽急便と赤帽ですが、両者の違いはどのようなところにあるのでしょうか。
それぞれ項目別に比較しましょう。
軽急便 | 赤帽 | |
---|---|---|
組織の形態 | 運送会社 | 協同組合の連合会 |
業務の形態 | 業務委託 | 組合員として加入 |
主な仕事内容 | 緊急配送ルート配送企業内配送ハンドキャリー業務 | 引っ越し緊急輸送定期配送法人の顧客への配送 |
仕事の取り方 | 軽急便が受注しドライバーに振る | 基本的にはドライバー自身が営業する |
事務作業や請求業務 | 軽急便が行う | ドライバー自身が行う |
加盟金 | 全国一律22万円 | 都道府県ごとに異なる(11〜66万円) |
車両 | 購入か持ち込み | 購入、リース、持ち込み |
新規開業用品、初期セットの費用 | 70,298円 | 13,000円 |
福利厚生など | 労災、けがなどの保険、JAF、開業1年以上の優良会員ドライバーに対する手数料率優遇割引制度など | 共済会、労災、年金制度、レクリエーション、イベントなど |
ロイヤリティ | 14〜16% | 0 |
その他 | – | 入会時に出資金3万円が必要 |
両者のもっとも大きな違いは業務の形態です。
軽急便は業務委託契約を軽急便と会員ドライバーとが結ぶのに対して、赤帽は協同組合の組合員という立場であるため、根本的な部分が異なります。
赤帽ではロイヤリティとして手数料が引かれることはありませんが、組合やほかの組合員から仕事を紹介してもらう場合は、その都度紹介料を支払わなければなりません。
逆に、自分がほかの組合員に仕事を紹介した場合は紹介料を得られます。
軽急便での独立・開業について
ここでは、軽急便で開業するまでの流れや、開業に必要な資金について解説します。
軽急便で開業するまでの流れ
軽急便で開業するまでの流れは以下のとおりです。
- 公式ホームページから開業説明会への参加予約をする
- 開業説明会に参加する(一次審査)
- 社員による横乗り実務体験、運転技能の確認
- 役員による面接(二次審査)
- 入会手続き
- 業務委託契約の締結
- 加盟金の納付
- 車両・開業用品発注
- 運輸支局へ貨物軽自動車運送事業経営届出書を提出する
- 納車(購入の場合)
- 任意保険、貨物賠償責任保険への加入
- 開業前研修
- 座学研修1日
- 横乗り研修3日
- 開業
開業説明会は、全国の支店や営業所で毎月2〜4回程度行われます。
ただし、すべての拠点で行われるわけではないため、事前に公式ホームページにて確認することをおすすめします。
加盟には、学歴、性別、経験の有無は関係なく、普通運転免許のある60歳までの人であれば誰でも応募が可能です。ただ、審査や技能確認をパスしなければなりません。
説明会参加から開業までは、1〜2カ月程度かかります。
また、開業前の研修は4日間のみですが、開業後のフォローアップ研修が充実しており、未経験でも安心して始められます。
軽急便での開業に必要な資金は?
軽急便での開業に必要な資金は、車両を購入するか持ち込むかによって大きく異なります。
- 車両を持ち込む場合:約45万円
- 車両を購入する場合:約180万円
内訳を見てみましょう。
車両を持ち込む場合 | 車両を購入する場合 | |
---|---|---|
加盟金(開業登録料、開業指導料) | 220,000円 | 220,000円 |
車両代 | 1,327,480円〜※車種によって異なります | 0 |
任意保険料(年間) | 145,000円 | 145,000円 |
貨物保険料(年間) | 15,000円 | 15,000円 |
新規開業用品費用 | 70,298円 | 70,298円 |
合計 | 1,777,778円 | 450,298円 |
※金額はすべて税込です。
車両代について
車両は会員斡旋価格にて購入できます。
専業でやっていく人の多くが購入していますが、黒ナンバーの取得が可能な車両であれば持ち込みが可能です。
その場合は車両費がかからないため、初期費用をかなり抑えられます。
貨物保険について
貨物保険とは、以下の保険です。
- 賠償責任保険
- 個人情報漏洩賠償保険
- 運送業者貨物賠償責任保険
荷物の破損や盗難、顧客の個人情報が漏洩してしまった場合などの賠償リスクを補償する、軽貨物ドライバーとして個人でやっていくために必要な保険です。
新規開業用品について
新規開業用品には、以下のものが挙げられます。
- ユニフォーム
- 帽子
- Xスタンパー
- ヘルメット
- 輪止め
- 安全ベスト
- ラッシングベルト
- 三角停止板
- 名刺
- 伝票
- アルコール検知器
- 安全靴
軽急便ドライバーとして開業するうえで必要なものがセットになっているため、準備の手間が省けます。
軽急便ドライバーの年収は?儲かるって本当?
軽急便ドライバーの平均年収は、350〜400万円程度だといわれています。
完全出来高制であるため、働いたら働いた分だけ報酬が得られますが、儲かるかどうかは人それぞれです。
通常の軽貨物ドライバーのように荷物1個につきいくら、というものではなく、以下のように運ぶ距離に応じて報酬額が変わってきます。
約20kmまでの市内配送 | 4,200円/1件 |
約180kmの長距離配送(名古屋〜大阪間) | 24,300円/1件 |
約350kmの長距離配送(名古屋〜東京間) | 41,300円/1件 |
大きく稼ぐためには、市内配送を効率よくこなすか、積極的に長距離の仕事をとることが必要でしょう。
たとえば、以下のように仕事をすれば、月収50万円も不可能ではありません。
市内配送を月30件 | 126,000円 |
約180kmの長距離配送を週3回 | 291,600円 |
約350kmの長距離配送を月2回 | 82,600円 |
合計 | 500,200円 |
ただし、毎月の売上からロイヤリティとして14〜16%が引かれます。16%引かれた場合、手取りは420,168円です。
また、ガソリン代や高速代なども別途かかるため、実際に手元に残る金額はこれよりも少なくなります。
軽急便はやばい?やめとけと言われる理由
軽急便の仕事は「やばい」「やめとけ」などネガティブなことを言われることがあります。なぜ、このようなことが噂されているのでしょうか。
ここからは、その理由に関連しそうな軽急便の仕事における実態について3つ紹介します。
辞めたくても辞められない
やばい、やめとけと言われる理由として、軽急便を辞めたくても辞められないケースが原因になっていると言えるでしょう。
しかし、これは軽急便に限ったことではなく、軽貨物業界全体にはびこる問題です。
辞められない理由には、契約期間内での解約ができない可能性があることが挙げられます。それでも途中解約した場合、運送会社によっては違約金を請求されることも。
実際に、軽急便でも違約金をめぐってトラブルになった事例が過去にあります。
運送会社の中には、ドライバーにとって明らかに不利な契約を結ぼうとしてくるところもあります。そのため、軽急便でもほかの運送会社でも、契約をする際はしっかりと契約書の中身を確認する必要があります。
支払う経費が多い
支払う経費が多いところも、ドライバーにとって苦しいポイントの1つです。
たしかに、加盟金なしで契約できる運送会社は、探せばたくさんあります。また、加盟金を支払っているからといって、その分報酬が多くなるわけでもないため、高い初期費用を払ってまで働くメリットがないと考える人はたくさんいます。
さらに、軽急便は通常報酬の支払いが毎月月末締めの翌々月20日払いのため、すぐに入金されません。最初に費用がかかることに加え、最初の報酬が入るまでの生活費なども考慮すると、それなりに資金が必要です。
ただ、早期支払制度を利用すれば、翌月20日払いも可能になります。開業後すぐに収入がないと困るという場合は、会社に相談してみるとよいでしょう。
過去に報酬未払いが原因となった事件があったため
報酬の未払いが原因で起こった痛ましい事件は、発生から20年近く経った今もなお、人々の記憶に深く刻みつけられています。
そのため、軽急便=未払いの印象がある人もいるでしょう。事件の詳細については、次章にて詳しく解説します。
軽急便とのトラブルにまつわる事件
軽急便とのトラブルにまつわる事件といえば、2003年に起きた名古屋立てこもり放火事件ではないでしょうか。
名古屋立てこもり放火事件とは
会員ドライバーの男が軽急便名古屋支店内にガソリンを撒き、支店長と男性社員8名を人質に取って立てこもった事件です。
支店長以外の人質は無事解放されましたが、その直後に男はライターでガソリンに火をつけ自害。
爆発によって支店長も死亡したほか、県警の機動捜査隊隊員1名が死亡、警察官3名が重傷、38名が軽傷を負いました。
事件はなぜ起こったのか
男の動機は、軽急便に対し、報酬の未払いについて抗議するためでした。
いかなる理由があろうとも、凄惨な事件を巻き起こした男の罪は許されません。しかし、軽急便の実態や仕組みにまったく問題がなかったとも言い切れません。
男は「安定した収入が確保できます」との謳い文句に惹かれ、軽急便の会員ドライバーとして開業したばかりでした。説明会では、月収30〜50万円を保証されるとの説明を受けたといいます。
ところが、男の要求していたのは、3カ月分の未払金である25万円でした。3か月で25万円ということは、月収30〜50万円どころか、9万円もありません。
まさに、極限まで追い詰められた末に起きた悲劇でした。
軽急便のどのような実態や仕組みがトラブルの引き金になったのか
軽急便の持つ以下のような実態や仕組みが、トラブルの引き金になったと考えられます。
- 数がこなせない場合、期待していたほどの収入が得られない
- 収入にかかわらず、ロイヤリティや保険料、車両のローン代が毎月かかる
- 会員全員が平等に仕事を回してもらえるわけではない
- いつ仕事が入ってくるのか、今月はいくら稼げるのかわからないという不安
きちんと仕事が回ってきて、それをこなせるのであれば月収50万円も不可能ではないでしょう。
しかし、数がこなせない場合は期待していたほどの収入を得られません。その少ない収入からロイヤリティや保険料、車両のローン代を引けば、手元にはほとんど残りません。
また、軽急便から仕事を回してもらえるといっても、事務所側が人を選んで仕事を回しているのが現実です。現に加害者である男も、仕事を回してほしいと軽急便に直接訴えてはいたものの、仕事が増えることはありませんでした。
事件当時、稼げるとの謳い文句に釣られて開業したものの結局稼げず、廃業に追い込まれるドライバーは大勢いたといいます。そのため、起こるべくして起こった事件という見方もされています。
この事件をきっかけに、運送業界の闇が明るみに出ました。
仕事を回すというのは建前で、真の目的は軽車両を購入させることにあるのではという疑惑の声や、フランチャイズ事業の悪どさを指摘する声も上がるようになったのです。
なお、事件後は車両の持ち込みが可能となっています。
軽急便の評判と実態について
軽急便の現在の評判や実態はどうなのでしょうか。
ここでは、実際に軽急便で働いた経験のある人の口コミを紹介します。
よい口コミ
まず、よい口コミを2つ紹介します。
1つは、5 年前に軽急便で開業し、前職の頃よりも高い収入を得られるようになった人の口コミです。収入面だけではなく、仕事自体にやりがいを感じているそうです。
もう1つは、まったく違う職種から転職し、3年が経過したという人の口コミです。
開業当初から精力的に活動し、高い目標を持って取り組んでいるようです。
悪い口コミ
続いて、悪い口コミも紹介します。
1つは、入社時の期待と入社後のギャップがあったという人の口コミです。仕事の安定性は高くなく、コンスタントに仕事を回してもらうのは、なかなか厳しいようです。
もう1つは、フランチャイズに危険を感じている人の口コミです。200万円かけて開業したものの、元を取るのに難儀している模様です。
現在の軽急便は、車両の持ち込みができるようになった分、以前よりも参入はしやすくなりました。しかし、根本的な問題が解決したとはいいきれません。稼げる人がいる一方で、稼げずに苦しむ人がいるのもまた現実です。
軽貨物の業務委託は請負元の選定が大切
ここまで述べたとおり、個人事業主として委託ドライバーの仕事をするなら、優良な運送会社の選定が重要です。
甘い言葉に惑わされず、請負元として本当に信用できるのか、業務契約を結んだとして、きちんと生計を立てていけるのかなどを事前に見極める必要があるでしょう。
1社だけで即決せず、何社かしっかりと話を聞いたうえで比べてみることをおすすめします。