トラック運送業界において、ドライバーの長時間労働は長年の課題とされてきました。2024年4月からの働き方改革関連法の本格施行に伴い、トラックドライバーの労働時間に関する規制が強化されています。
本記事では、トラックドライバーの労働時間の現状や2024年問題の詳細、さらには労働時間短縮に向けた具体的な対策や成功事例まで、幅広く解説します。
トラックドライバーの労働時間の現状
トラックドライバーは自動車運転の業務の中でも、特に労働時間が長い業種です。国土交通省が実施した実態調査によると、荷待ち時間(荷物の積み込みや荷物下ろしの待機時間)が長時間労働の主な要因の1つとされています。
1運行あたりの荷待ち時間は平均して1時間34分にも及び、この時間の削減がドライバーの労働時間短縮への重要な課題となっています。
労働時間・拘束時間について
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、トラックドライバーの労働時間は全産業平均と比べて長くなっています。2022年における大型トラックドライバーの年間労働時間は2,568時間、中小型トラックドライバーは2,520時間で、全産業平均の2,124時間と比較すると、約400時間も長い状況です。
さらに、荷待ち時間の有無別に見ると、荷待ち時間がある運行は全体の24%を占め、その場合の1日の平均拘束時間は12時間26分に達します。
一方、荷待ち時間がない運行でも10時間38分の拘束時間となっています。荷待ち時間の内訳を見ると、30分以下が20.3%、30分〜1時間が29.5%、1時間〜2時間が32.4%と、多くの運行で長時間の待機を強いられています。

出典:トラック業界の現状|厚生労働省
休息時間について
トラックドライバーの休息時間について、改善基準告示により2024年4月から新しい基準が適用されます。改善基準告示では、1日の休息期間を11時間以上確保することを基本とし、最低でも9時間を下回らないことと定められています。
これは、トラックドライバーの過重労働を防ぎ、十分な休息を確保するための重要な基準です。しかし実際には、荷主の都合による急な荷物の追加や道路状況の影響で、計画通りに休息を取れないケースが多く発生しています。
2021年度の調査によると、通常期のトラックドライバーの休憩時間は「1時間超」が最も多く73.4%を占めていました。次いで「1時間以下」が 25.4%、「休憩なし」が 1.1%に上っています。
長時間の拘束が常態化する中で、休息時間の確保はトラックドライバーの安全運転や事故防止の観点からも重要な課題となっています。
出典:
トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります!|厚生労働省
トラック運転者の労働時間等に係る実態調査事業報告書|有限責任監査法人トーマツ
残業時間について
トラックドライバーの残業時間について、2024年4月以降、時間外労働の上限規制が適用されています。具体的には、原則として月45時間以内、年360時間以内となり、臨時的に超過する場合でも年960時間を超えることは認められません。
荷主の立場から対策しなければ、2024年度には約14%、2030年度には約34%の輸送能力が不足する可能性があると指摘されており、労働時間の適正化は業界全体で早急に取り組むべき課題といえます。
出典:建設業・ドライバー・医師の時間外労働の上限規制 特設サイトはたらきかたススメ|厚生労働省
トラックドライバーの労働時間が長い理由
ここでは、トラックドライバーの労働時間が長くなってしまう要因について考えます。
長時間の荷待ち
トラックドライバーの荷待ち時間は深刻な問題となっています。先述のとおり、荷待ち時間が発生する運行は全体の24%に上り、その場合の1日の平均拘束時間は12時間26分です。
一方、荷待ちがない場合でも10時間38分の拘束時間が発生しており、トラックドライバーの長時間労働が常態化しています。
また、国土交通省による「働きかけ」における違反原因行為の調査では、長時間の荷待ちが全体の43.0%を占めているので、長時間労働の最も大きな要因といえるでしょう。
人手不足による業務集中
2022年9月におけるトラックドライバーの有効求人倍率は2.12倍と、全職業平均の1.20倍を大きく上回っており、人手不足が深刻な状況です。この影響で1人あたり業務負担が増加し、労働時間の長期化につながっています。
年齢構成を見ると、45〜59歳が全体の45.3%を占める一方、29歳以下はわずか10.0%にとどまっており、若手の確保が進んでいません。
また、ドライバーの平均年齢は大型トラックで49.9歳、中小型トラックで47.4歳と、全産業平均の43.4歳を上回っています。さらに、女性ドライバーの割合は20.1%と低く、全産業平均の44.7%と比べても人材の多様性が欠けています。
これらの構造的な問題が、既存ドライバーの負担増加につながっているのが現状です。
出典:統計からみるトラック運転者の仕事|厚生労働省
非効率な配送ルートと運行管理
運送業界では、昔からの取引慣行や荷主の指示により、効率的な配送ルートの確保が難しくなっています。
国土交通省の調査では、長時間の荷待ちに加えて、依頼になかった附帯業務(12.0%)、運賃・料金の不当な据置き(12.0%)、過積載運行の要求(12.0%)など、ドライバーにとって負担の大きい問題が指摘されています。
特に、納品時間の厳格な指定や、特定の曜日・時間帯への配送集中が、柔軟なルート設定を妨げる要因です。また、無理な配送依頼(11.3%)、拘束時間超過(7.7%)も多く、計画的な運行管理が難しいくなっています。
さらに、突発的な配送依頼や天候不順による遅延などの不測の事態も、ドライバーの労働時間を必要以上に延ばす要因となっています。
出典:荷主・元請運送事業者の皆さまへ|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
働き方改革関連法の施行(2024年問題)とトラックドライバーの労働時間
道路貨物運送業は、脳・心臓疾患による労災支給決定件数が全業種の中で最も多く、トラックドライバーの長時間・過重労働が大きな課題となっています。
こうした状況を改善するため、2024年4月から働き方改革関連法に基づく新たな労働時間規制が導入されました。
この規制は過労死などを防ぐことを目的としており、業界全体に大きな影響を及ぼすと考えられています。

2024年4月からの主な変更点
2024年4月から、働き方改革関連法によりトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されています。時間外労働は年間960時間までとされ、さらに1年・1カ月・1日の拘束時間や休息期間についても厳しく規制されます。
この規制は、営業用トラック(緑ナンバー)だけでなく、自家用トラック(白ナンバー)にも適用されます。また、個人事業主は直接の対象ではないものの、実際には改善基準告示に沿った対応が求められます。規制に違反した場合、トラック運送事業者は行政処分が科される可能性があるでしょう。
出典:トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります|厚生労働省
労働時間に関するルール
改正された改善基準告示では、トラックドライバーの拘束時間に明確な上限が設けられています。
以下のように、新たな規制によってトラックドライバーの長時間労働が制限されました。
項目 | 上限時間 | 備考 |
---|---|---|
年間の拘束時間 | 3,300時間以内 | 労使協定があれば最大3,400時間まで延長可能 |
1カ月の拘束時間 | 284時間以内 | 繁忙期は最大310時間まで延長可能 |
1日の拘束時間 | 13時間以内 | 最大でも15時間まで(14時間超は週2回まで) |
長距離輸送の特例 | 16時間以内 | 宿泊を伴う長距離運行時のみ(週2回まで) |
時間外・休日労働 | 1カ月100時間未満 | 過労防止のため、これを超えないよう努めることが求められる |
出典:トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります|厚生労働省
休息期間の新しい基準
2024年4月からの新しい改善基準告示により、トラックドライバーの休息時間に関するルールが強化されました。
項目 | 内容 | 例外 |
---|---|---|
1日の休息期間 | 継続11時間以上が基本 最低9時間の確保が必須 | 宿泊を伴う長距離輸送の場合、8時間以上の休息を週2回まで適用可 |
休息期間が9時間を下回る場合、運行終了後に継続12時間以上の休息を確保 | ||
連続運転時間 | 4時間以内 | 休憩は運転の中断時に原則与える1回10分以上、合計30分以上 |
出典:トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります|厚生労働省
トラックドライバーの労働時間を規定時間内にするための対策案
2024年4月から適用される時間外労働の上限規制に対応するためには、トラック運送事業者と荷主が協力し、労働時間の短縮に向けた具体的な改善策を講じる必要があります。
特に荷待ち時間の削減や効率的な運行管理を実現するために、以下のような対策が推奨されています。
デジタル化による運行管理の効率化
トラック運送業界では、デジタル技術を活用した運行管理の効率化が進められています。
例えば、予約システムを導入しれば、荷積み・荷下ろし時の待機時間を大幅に削減できます。また、AIを活用した配車システムを導入することで、最適な運行ルートの設定や車両の稼働率を向上させられるでしょう。
さらに、GPSやテレマティクス機器を活用すれば、車両の位置や運行状況をリアルタイムで把握でき、急な配送要請にも柔軟に対応できます。
荷主企業との協力体制の構築
荷主企業との協力関係の構築は、トラックドライバーの労働時間短縮に欠かせないポイントです。
例えば、納品時間を柔軟に設定したり、特定の曜日や時間帯に配送が集中しないように調整したりすることで、労働時間をより均等に分配できます。
また、パレット化の推進により、荷物の積み降ろし作業が効率化され、時間短縮できます。
荷主都合で発生する長時間の荷待ちを解消するためには、荷主企業に改善基準告示の内容を理解してもらい、発注担当者への教育を徹底することが重要です。さらに、リードタイムの延長や高速道路の利用促進などの具体的な改善をするためには、荷主企業の理解と協力が欠かせません。
中継輸送システムの導入
中継輸送システムは、長距離輸送を複数の区間に分け、それぞれの区間を別のドライバーが運転を担当することで、1人あたりの拘束時間を大幅に削減できます。
この仕組みを導入すると、ドライバーの負担が軽減されて日帰り運行が可能になり、十分な休息時間を確保できます。
また、中継地点となる物流拠点を集約・整備することで、荷物の積み替えがスムーズになり、輸送効率も向上します。

トラックドライバーの労働時間の改善に成功している事例
トラック運送業界では、さまざまな企業が独自の工夫により労働時間の改善に取り組んでいます。
以下では、特に顕著な成果を上げている3社の事例を紹介します。これらの事例は、ほかの運送会社が取り組みを検討する際の参考となるはずです。
鶴信運輸株式会社
岡山県の鶴信運輸株式会社では、業務提携先の助言・協力のもと、「スワップボディコンテナ車両」を導入し、ドライバーの拘束時間削減に成功しています。
このシステムでは、荷役作業と配送作業を分担することで、ドライバーの拘束時間を削減でき、さらにコンテナの着脱も20分程度で完了するため、作業の効率化が進みました。
また、広島から関東への長距離輸送を、広島〜関西拠点、関西拠点〜関東の2区間に分けることで、ドライバーの拘束時間を大幅に短縮しています。
従来は片道の空車運行が発生していましたが、スワップボディコンテナ車両を活用することで、効率的な往復輸送が可能となり、ほかのドライバーの労働時間削減にもつながっています。
菱木運送株式会社
千葉県の菱木運送株式会社は、ドライバーの運転時間・拘束時間・休息期間をリアルタイムで状況を把握できる独自の運行管理システム「乗務員時計(リアルタイム支援システム)」を開発・運用しています。
このシステムを活用することで、運行管理者は会社のパソコンで運行状況をリアルタイムに確認できるようになりました。
出勤時には必要な休息期間や休日の取得情報を確認でき、運行中も残りの運転時間や休憩時間、拘束時間をリアルタイムで把握できます。また、運行時間の一元管理により、特定のルートやドライバー運転者に業務が偏らないよう調整し、月ごとの拘束時間を均一化しました。
さらに、荷主側とも情報を共有し、長時間の荷待ち解消のための相談や、バラ積み・下ろしをパレット化するなどの改善を進めています。
エースカーゴ株式会社
滋賀県のエースカーゴ株式会社では、独自の社内システムを開発し、業務の効率化を実現しています。
従来は手書きなどアナログで行っていた運行管理や伝票管理を、従業員の意見を反映しながらフォーマットを統一化しました。その結果、確認作業の時間を大幅に削減し、業務の正確性も向上しています。
また、荷主・事務所・倉庫・配送先などの情報をクラウド上でリアルタイムに共有できる環境を構築。これにより、電話での確認や問い合わせが減り、業務効率が向上しています。
さらに、取引先との関係をより良いものにするため、サービス内容や適正価格設定の重要性を丁寧に説明。システムを実際に見てもらうことで、具体的な改善につなげる取り組みも進めています。
出典:時間外労働削減のための改善事例|厚生労働省
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